禁断兄妹
第57章 会いたかった
深く顎を引いた上目遣いの視線は俺とほぼ同じ高さ
目も眉も細く切れ上がった鋭さの際立つ顔立ちに静かな微笑を浮かべ
会釈をしながら歩み寄ってくる。
「この店に入るところを偶然お見かけしたので、つられて私も入りましてね‥‥いい店で、つい長居をしてしまいましたよ」
高価だと一目でわかるスリーピース・スーツ
靴もネクタイも洗練された上質なものを身に付け
堂々とした態度で待ち伏せをほのめかす。
妙な男だ
「うちの娘があなたの大ファンなんです。毎度話を聞かされて、私まであなたに興味が湧くようになりました」
三十前後に見える男の年齢から考えると
子供である娘はまだ幼過ぎるように思えるが
この謎めいた男に話の真偽を確かめても仕方がない。
「そうですか‥‥ありがとうございます。お嬢様にも宜しくお伝え下さい」
俺がそう言うと
男は苦笑いするように口の端を上げた。
「今の女性はご家族ですか?可愛いらしい方ですね。目に入れても痛くない、そんな顔をしていらっしゃいましたよ。
‥‥雑誌で見るあなたからは、想像もできない」
「‥‥」
「私も娘は目に入れても痛くないのでね‥‥お気持ちはわかりますよ」
「すみません、今日はプライベートなので」
俺が話を切り上げようとすると
「‥‥ぜひ握手を」
一歩踏み出した男が右手を差し出した。
掬い上げるように俺を見据える冷ややかな三白眼
俺は仕方なくその手を握った。
「‥‥っ!!」
「ああ、すみません。ずっとお会いしたいと思っていたものですから‥‥つい力が入ってしまって」
男は手を離すと
悪びれもせず薄く微笑んだ。