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禁断兄妹

第58章 嵐の夜


さっきまでの冷静な修斗とは別人のような怒声
両手を下ろすと
迸る憤怒を隠そうともしない顔が私を見下ろしていた。


「柊君はまだ記事のことを知らなかったわ‥‥」


「ハッ‥‥知らねえか‥‥こっちは大ケガでもあいつには痛くも痒くもない内容になってるからな‥‥いい気なものだ」


修斗はぞんざいな口調でそう言うと
冷笑に小さく肩を揺らした。

その全身から陽炎のように立ち上っている
静かな怒り


「つい最近‥‥そのクソガキを見かけましたよ‥‥」


薄く笑う修斗の口から
思いがけない言葉が吐き出された。


「光源氏よろしく美しい少女を連れて、ひどくご満悦でね‥‥道端でキスでもせんばかりに顔を寄せ、喉を撫でていた」


「え‥‥?」


突然の話に頭が混乱する。


「もし本当にあなたのことを想っているのなら、空いた時間があれば一番にあなたに会うはずだ‥‥」


修斗は鋭い視線を私に向ける。


「‥‥そう思いませんか?もしかしてなんて思っているのは、嬢だけだ」


「柊君から会えないかと言われていたわ。でもお互いのスケジュールが合わなくて、会えていなかったの」


どこで柊君をを見かけたの
美しい少女って何
それは本当の話なの

そんな言葉がいくつも胸に浮かぶ
けれど今修斗に伝えなきゃいけないことはそんなことじゃない
時間がない


「今の私はまだ何人かの内の一人かも知れない。でも可能性が見えた気がするの、信じてみたいの‥‥お願い、会わせて」


「いい加減にしろ!!」


真上から落ちてきた雷
息は止まり身体がすくむ。


「こんなことになったのは全部あいつのせいじゃねえか!!可能性?信じたい?どこまであのクソガキに傷つけられれば気が済むんだ!!」


一気に燃え盛る怒りの炎

違う
柊君のせいじゃない
私のせい

そう言い返したいのに
圧倒されて声が出せない。


「‥‥荷物はもういい、後で全部運ばせる。行くぞ」


修斗は吐き捨てると私の腕を掴み
立てとばかりに強く引き上げた。

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