禁断兄妹
第60章 嵐の夜③
マンションを出た俺はタクシーに乗る気になれなくて
行けるところまで行くつもりで歩き始め
結局そのままアパートまで歩いてしまった。
ベッドに倒れこみ息をつくと
一時間以上歩いた身体はすぐに眠気を感じた。
ぼんやりと天井を見上げながら
仕事中に届いていた萌からのメールをまた思い返す。
『お母さんに柊のアドレス教えてって言われたから、教えてあげたよ。
お母さんね、お父さんに頼まれた用事で、明日から北海道に行って来るんだって。
何日かかかるかもしれなくて、帰りの日は決まってないの』
その間できるだけ家に来て欲しいという萌
そして萌からアドレスを聞いたという美弥子からも
留守の間萌を一人にするのが心配だから家に泊まりに来てくれないかというメールが届いていた。
灰谷のこともある
できるだけ家に帰ることに異論はないが
不穏な胸騒ぎが消えない。
残された時間を使って父さんは何をしようとしているのか
美弥子は用事の内容を
『夏巳さんのお墓のお掃除や、夏巳さんのお母様にご挨拶とか』などといつもの調子でのんびりと書いていたが
帰る日も決めずそんなことに何日もかけるなんて本当なのか
───もし俺に話したいことがあるなら‥‥今、言えないか───
父さんの言葉に「何もない」と逃げたことが
今も俺の胸に影を落とす。
俺と萌を二人きりにして試そうとしているのか
灰谷に何か吹き込まれたか
美弥子
まさか盗聴器でも仕掛けて出掛けるんじゃないだろうな
次々と浮かぶ疑念
俺が勘ぐりすぎているだけなのか
何度考えても答えは出なかった。
「‥‥はあっ‥‥」
大きく息を吐き寝返りを打つ。
本当は誰にでも正直に言いたい
彼女は萌だと
でも父さん
あなたには言えない