禁断兄妹
第60章 嵐の夜③
「その言葉、二度と忘れんな!!」
鋭い声と共に
露になったままの左胸がいきなり鷲掴みされた。
「‥‥ひぅッ!!」
ぎらぎらと光る二つの目
瞬きもせずに距離を詰め
凍りつく私の目の奥を覗きこむ。
「口と気ばっかり強くても、てめえはここがガタガタだから、こんな世話かけんだよ」
ドスの効いた低い声で
ここ、と口にした瞬間
その大きな手に力がこもって
握りつぶさんばかりに強く押さえつけられる。
「‥‥っ!」
「いいか、飛び降りる度胸より這いつくばってでも生きる度胸をつけろ‥‥何もねえならてめえが一から作れ‥‥わかったか」
焼けるように熱い手と眼差しから流れ込んでくる強靭な力
「うん‥‥っ、うんっ‥‥」
何度も頷きながら涙がとめどなく溢れた。
肌にかかっていた熱い息が遠退く気配に
いつの間にか固く閉じていた目を開けると
胸から離れた手は手品のように一瞬で腕の縛めを解き
ベッドの上にあったタオルケットが私の身体に投げられた。
立ち上がった修斗は私に背を向け
荒っぽい手つきで身なりを整え始める。
助かった
さっきまで死にたかったくせに
心からそう思った。
全身から力が抜けて
固く握り締めていた手の中から
小さな音をたててウサギがフローリングに転がる。
震える手を伸ばし
タオルケットと一緒にぎゅっと胸に抱いて顔を埋めると
また新たな涙がタオルケットに染みていった。
「修斗‥‥バカなことして、ごめんなさい‥‥」
ネクタイを結ぶ荒々しい衣擦れの音が止まる。
「助けてくれて‥‥ありがとう‥‥」
生きていこう
強く
生きていこう
このすべての痛みとともに