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華のしずく~あなた色に染められて~

第25章 【花屑(はなくず)~華のしずく~】

 春の宵は暑くもないはずなのに、嫌な汗をかいていた。
「うなされていたようだが、どうかしたのか」
 案じ顔の典房に、寧子は弱々しく微笑んだ。
「怖い夢を見ておったようにござります」
「大丈夫か?」
 典房の問いに、寧子はかすかに頷いた。
 そっと夜具から抜け出すと、立ち上がり庭に面した障子戸を細く開けた。まだ夜は明けきらず、ほの暗い闇が庭に立ちこめている。

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