華のしずく~あなた色に染められて~
第9章 【蜩(ひぐらし)~華のしずく~】
「この城を落ち延びて、どこか頼る先はあるの?」
顔を覗き込まれ、おふうは首を振った。父も討ち死にし、母や妹も行方知れずとなった。ここより他に、おふうの行く先はどこにもない。そのことを正直に告げると、美しいひとの顔が曇った。そのひとは立ち上がり、懐から何やら取り出すと、楓に差し出した。
「楓、これをお持ちなさい」
そのひとが差し出したのは、見事な飾り櫛であった。黒塗りの櫛には蒔絵細工が施され、桜の花と蝶が描かれている。
顔を覗き込まれ、おふうは首を振った。父も討ち死にし、母や妹も行方知れずとなった。ここより他に、おふうの行く先はどこにもない。そのことを正直に告げると、美しいひとの顔が曇った。そのひとは立ち上がり、懐から何やら取り出すと、楓に差し出した。
「楓、これをお持ちなさい」
そのひとが差し出したのは、見事な飾り櫛であった。黒塗りの櫛には蒔絵細工が施され、桜の花と蝶が描かれている。