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華のしずく~あなた色に染められて~

第20章 【朱夏~華のしずく~】

 蘭丸が礼を言おうとした時、男がつと振り向いた。
「そなた、俺の許に来ぬか。砂山には俺が話す。城に来て、俺の傍近くに仕えてみぬか」
「―?」
 蘭丸は小首を傾げた。思えば、不思議な男であった。年の頃は三十前後ほど、上背のある端整な美男であり、武士らしい逞しい体躯をしている。気さくな物言いや態度は好感のの持てるもので、けして傲岸ではないのに、辺りを圧するかのような存在感がある。ただの武士ではなさそうなのは、蘭丸のような子どもにも判ったが―。

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