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♢Fallen Angel♢

第2章 *

駅のロータリーに着く頃には日が傾き、車のボディが茜色に染まる。
「送ってくれてありがとう」
絡めていた指先を離すと
「ここでいいの?家まで送るのに」
「ごめんね。親がうるさいから…紹介できるまで待っててくれる?」
上目遣いで見つめると男は頬を赤らめ
「分かってるよ」
扉を開けて降りようとすると
「そうだ、これも持って帰って」
ダッシュボードの小さな紙袋を渡されると
「いいの?ありがとう」

セレクトショップも宝飾店も買って貰える事は予測していた。
身銭を切るなんて欠らにも思っていない。

車から降りて幾つもの大きな紙袋を受け取ると
「また夜にね」
頬に小さく唇を押し当てて手を振って見送った。
車が見えなくなるとタクシーを捕まえて乗り込み、カフェまで戻ると中に入りコーヒーの挽き豆とケーキを買うと車に乗りアクセルを踏み込んだ。

わざわざ手間のかかる事をしているのは家と車を知られるのを避ける為。

マンションの駐車場に停めて家に戻るとリビングのドアを開けて
「お帰り。…どうしたのその袋」
ソファーから立ち上がり、近づくと蓮の腰に手をまわした。
「客に買ってもらったんだよ。暫くは仕事着買わなくて済むかな?それとお土産」
ケーキの箱とコーヒーの紙袋を渡すと
「ここのコーヒー旨いよね?淹れようか?」
「うん」
体が離れると
「唯たんケーキだよ。こっちおいで」
座っていたソファーから飛び降りてダイニングテーブルに駆け寄り手を伸ばしている。
甲高い声に鬱陶しさを感じながら床に大きな紙袋を雑に置いた。
ソファーに体を沈め、肘掛けに凭れているとコーヒーの匂いが漂ってくる。
「カフェオレでいい?」
「うん」
「蓮も一緒に食べようよ。こっち来て」
煩わしく思いながら体を起こしダイニングの椅子に座った。
向かい合わせにクリームを口元付けて頬張っている唯の姿にため息が零れ
「またこんなに汚して…」
フォークを握る手を掴んで口元を拭った。
カフェオレを飲み干すと大きな紙袋を抱えて寝室に入り、一枚だけ丈の短いワンピースを取り出してベッドに広げ、後は袋ごとクローゼットに押し込んだ。
小さな袋を開けると誕生石をあしらった指輪が入っていた。
鏡台の上に置かれたままのジュエリーケースを開けると整然と並べられていて、その中に仕舞った。

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