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♢Fallen Angel♢

第4章 EPICUREAN

カフェの前でタクシーを降りて店のドアを開けると、目的の男の姿はなかった。
奥のテーブル席に座ると店員にミルクティーを頼み、携帯を開いて客に営業メールを送っていると
「ごめん。待たせたかな?」
男の声に振り向いて携帯をバッグにしまうと
「そんなことないよ。少しだけ早く着いただけだよ」
優しい微笑みを返した。
迎え合わせに男が座り、コーヒを頼むと何かを思い出したように
「そうだ…」
ジャケットの内ポケットから箱を出して
「誕生日は忙しいだろうから、先に渡しておくね。欲しがってただろ?」
手渡された箱を蓮はわざと不思議そうな顔をして受け取る。
「開けてみて」
男に促されるまま箱を開けると、中には華奢なブレスレットが入っていた。
「ありがとう。覚えててくれたんだね。うれしい」
満面の笑みにこたえるように男は顔に皺を作ってはにかんだ。
取り出して右腕につけると
「前に買った指輪ともよく合うよ。蓮は宝飾品を選ぶセンスがあるんだね」
「そうなのかな?」
目が合うと小さく笑い合う。
テーブルにミルクティーとコーヒーが運ばれ、カップに口をつけると甘い幸せを感じる。
「お昼はまだ食べてないのかな?」
「うん。おなか空いちゃった」
「じゃあ、行こうか」
伝票を手に男が立ち上がると後に続き、支払いを任せると男の手を小さく握った。
「いつも行く店でもいいかな?ランチが旨いんだよ」
「一緒にいられるならどこでもいいよ」
カフェを出ると指を絡めるように手を繋いだ。
「この近くなんだよ。ほら、そこだよ」
男は道向かいの洋食屋を指差した。
手を引かれて車を避けるように急いで道を渡った。
上がる息に目が合って、また小さく笑った。
店の前で繋いだ手を離すと、ドアを開ける男に促されて中に入った。
テーブル席に座ると店員に男はランチを、蓮は少し迷ってナポリタンを頼んだ。
暫くするとテーブルに皿が並び
「いただきます」
フォークを器用に使いパスタを口に運ぶ。
大口を開けて頬張る蓮に
「いつも美味しそうに食べるから連れて来た甲斐があるよ」
男に見守られながら食事を終えた。
伝票を持つ男に支払いを任せて、店の外に出ると
「家に帰らないといけないからまた夜にね」
「わかってるよ」
手を振って男を見送った。

華奢な腕時計が急かす。
ブレスレットを外すと箱に戻してバッグに入れ、ヒールの踵を鳴らして走りだした。
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