テキストサイズ

12cm~越えられない距離~

第9章 絵を描く、という事

前田先生を思い出していると

「そういう訳だから…特に中谷くん!ちゃんと出品して下さい」

げ!!名指しかよ。

「…ジャンルは?」

「水彩、油絵どちらでも可です…でも、版画は駄目だからね」

「はーい…」

見透かされた感じだ。

「提出期限は8月末でお願いします」

はい、と所々で返事をしている。

「繚平、お前どっちで出す?」

沢尻が小声で聞いてきた。

沢尻は同じ2年生で、クラスはA組。

眼鏡を外すと、一瞬誰だか分からないくらいに黒縁眼鏡の印象が強い奴だ。

「ん~。水彩かな…。油絵めんどい」

「そうか…俺、どうしようかな…」

「夏に油絵は運ぶの大変だぞ~」

「だよな」

同意しながらも、沢尻はどちらがいいか悩んでいた。

悩むくらい、描く気がある奴はいいよな。

はぁ…とため息ついて、自分の荷物を取りに戻った。

何かなぁ…やる気、完全なくした。

仕方なくスケッチブックを取り出すと

「ちょっと素材探ししてきまーす」

そう言って、美術室から出ていった。


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