溺れる愛
第9章 花火
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一着だけ持ってきていた、この日のために用意した
普段は着ないような少し綺麗目のワンピースを着て
ちょっとでも俊哉に釣り合うように
メイクも入念にして、髪の毛をハーフアップにする。
(なんか…逆に気合い入れすぎ…?)
鏡に写る自分を見ながら悶々とするも
俊哉を待たせている事が気がかりで、もういいやと投げやりに部屋を後にした。
『ごめんなさい…お待たせしました…!』
旅館の入り口で待つ彼に声をかけると
彼はゆっくりとこちらへ振り向き、表情を固まらせた。
(…やっぱり…変かな…?)
不安げに、上目遣いで長身の俊哉の顔を見ると
彼はどこか照れたように目を逸らしてしまう。
『…先輩…?』
(やっぱり変なんだ…。背伸びしすぎだよね)
落胆していると、前を向く俊哉がぽつりと
「それ、反則。可愛すぎ」
と呟いた。
『…え?』
思わず耳を疑ってしまうような言葉に応えられないでいると
俊哉はさり気なく芽依の手をとって、そのまま歩き出してしまった。
そして、旅館から少ししたところで
「普段と全然違っててビックリした…
私服姿、初めて見たけど
予想以上に可愛いから焦った」
と、はにかんだ表情で笑ってくれた。