
溺れる愛
第10章 距離
待ち合わせ時間のちょうど8時に駅に着くと
既に那津はそこに居て
眼鏡をかけていないせいか、通り過ぎる女の子達が
羨望の眼差しを向けていた。
(顔だけよ。あんな奴。)
心の中で悪態をつきながら那津に声をかけると
彼は不機嫌そうに
「おせぇよ」
と呟いた。
『は!?時間ぴったりじゃん』
「あー朝からでけぇ声出すなよ…頭いてぇ…」
ふわぁっと大きな欠伸をする那津に
『…朝弱いの?』
彼は視線だけをこちらにくべて
「…うん。」
と、やけに素直に頷いた。
(へー…意外。コイツにも苦手なものってあるんだ…)
『じゃあいつも学校辛いの?』
「あー…まぁな。」
那津は重い腰を上げて、芽依に一枚の切符を差し出した。
「行くぞ」
『あ…待って、お金…』
「いいから。早く来い」
(もう…!本当に強引なんだから…!)
スタスタと先を歩く那津を急いで追いかけた。
