
溺れる愛
第10章 距離
相変わらずの無表情な彼は、その表情から感情を読み取ることは出来ない。
「朝見たときから思ったけど…お前何か違う」
『は?意味わかんない…』
検討もつかずに、那津の問いかけに首を傾げると、
那津は少し低い声で呟いた。
「…男でも出来た?」
『…え………』
(どうしてわかるの…?)
困惑して押し黙ってしまう。
だが、これはいい機会だと思った芽依は素直に口を開いた。
『うん…出来たよ…先輩と、付き合うことになった…』
それを聞いても、やはり那津の表情は変わらない。
「そう。良かったじゃん」
感情のこもっていない祝福の言葉をかけられて
芽依はギュッと手を握りしめて那津を見据えた。
『だから…もうあんな事はしないで』
「………」
波の音だけが響いていて、2人の会話はそれに流される。
しばらく真剣な表情で見つめ合っていると
那津があの冷徹な笑みを浮かべて呟いた。
「お前に拒否権はねぇよ」
