
溺れる愛
第12章 共犯
「すいませーん!」
他の客から声がかかり、急いでそちらに向かおうと
掴まれた手をなんとか振り解こうとすると
その男は余計に力を込めて離さない。
さすがにこれには芽依も黙っていられなくなってきて
『ちょっといい加減に』
叫ぼうとした瞬間、別の手が横から伸びてきて
やんわりと引き剥がされた。
「…困るんですよね。うち、ナンパ禁止なんで」
その声の主は紛れもなく那津で、
それはもう相手が竦んでしまう程の冷徹な表情を浮かべていた。
「あぁ…悪い悪い…」
男たちは歯切れの悪い返事をして
バツが悪そうに店を出ていってしまった。
「せっかくかずさんが作ったのに、食ってから帰れっつーの」
那津がぶつぶつと文句を言いながら、手をつけられなかった焼きそばを片付けだす。
(……手……熱い…)
知らない男に掴まれた時はあれほど気持ち悪かったのに
庇ってくれた那津の手は全然そうは思わなくて
その場に突っ立って困惑していた。
(どうして……あんな酷いことされたのに…)
すると那津がチラリとこちらに視線だけを寄越して
「あーゆーのはタチ悪いから…すぐ呼べ」
ぶっきらぼうだけど優しい。
優しいけど酷い。
全くつかめない彼に心も身体も翻弄されっぱなしだ。
『…わかった…ありがと…』
これが今日初めて交わした会話だった。
