溺れる愛
第13章 疑惑
「ふふ…それよ、それ。」
『??』
「あの子のその態度が、心を開いている証拠よ。
あの子が人を遠ざける時は絶対に態度を崩さない。
嘘の笑顔を浮かべて、丁寧な言葉遣いで拒絶する。」
(丁寧な言葉遣い…?そんなの一度も聞いた事ない…)
「怒らないであげてね?
本当に不器用な子だから…。
姉として、凄く心配。
あの子はもう一生笑わないんじゃないかって…」
長いまつげを少し伏せて話す波瑠に
芽依は握られた手を自分から握り返した。
『大丈夫です…。きっと、良くなりますよ。
私で良ければお手伝いします』
「ありがとう、芽依ちゃん。
芽依ちゃんに出会えて本当に良かったわ」
本当はそんな事、思っていなかった。
だけどこの悲しそうな波瑠をこれ以上悲しませたくなかった故に
嘘をついてしまっていた。
(だってたぶん…私じゃ無理よ…)
何度も蔑んだ目を向けられ
悪い女と言われ
都合のいい玩具だと言われ身体を弄ばれている。
そんな自分が那津を救う?
そんなの有り得ない事だと思った。
それに、自分自身、それを買って出る勇気も無い。
彼の言葉に一喜一憂しているのは明らかだ。
信じ通す自信なんて無いに等しい。