溺れる愛
第13章 疑惑
人気の少ない車両の中で、隣同士並んで座る。
そこには少し重い沈黙が流れていた。
(そう言えば今日、まともに会話してないな…)
そんな事を思っていると、横からスッと白い封筒を渡される。
『…なに?』
「姉ちゃんとかずさんから。バイト代」
『え!?そんな、悪いよ…』
「そう言うだろうからって、後で渡せって頼まれた」
『でも…私ほとんどお手伝い出来なかった様なものだし…』
二日目は丸一日抜けたといっても過言ではない。
だけど那津は無表情で
「受け取っとけば。それがあの2人の気持ちなんだし」
その時、波瑠の言葉が頭をよぎる。
────人の気持ちに凄く敏感な子────
(もしかしたら…こういう所なのかな…)
そう思った芽依は、ゆっくりと差し出された封筒に手を伸ばして受け取った。
『じゃあ…ありがとう。いただきます…』
「…ん」
手の中の、波瑠と和人の気持ちがこもった封筒に目線を落として
少しだけ頬が緩んだ。
ガタンゴトンと、列車がレールを走る定期的な音が
疲れた身体に心地良く響いて
地元の駅に着くまでお互い無言だったけれど
居心地が悪いものではなかった。