溺れる愛
第13章 疑惑
長く電車に揺られ、辿り着いた地元の駅は
午後11時を回ろうとしている頃では既に閑散としていた。
『はぁ~…やっと帰ってきたー』
疲れて凝った身体をほぐしながら
少し懐かしい空気を吸い込みほっとする。
「早く行くぞ」
立ち止まってのびている芽依に対して
那津は目もくれずに先に行こうとして、慌ててその後ろを追いかけた。
駅からしばらく歩く間、やはり行きと同様に
当然の様に芽依の荷物を持ってくれている彼の背中を
ぼんやりと眺めながら無言で歩く。
(優しい…だけど優しくない…だけど優しい…)
呪文の様に何度も繰り返し思う。
彼の行動は、手繰り寄せて突き放す。
それに振り回される自分。
もはや身体だけでなく心も。
(先輩と…付き合ったままでいいのかな…)
那津と身体を繋げてから幾度となく襲う罪悪感と疑問。
別れるなと言った那津の真意は見えない。
自分だけが悪くないなんて有り得なくて、
やはり芽依もあれだけ乱れていたのでは同罪だ。
「おい、ここだろ?お前ん家」
『え!?』
すっかり考え込んでしまっていた芽依は
いつの間にか辿り着いていた自分の家を
那津ごと通り過ぎてしまっていた。
(な、何やってんだろ私)
『そう、ここ!ごめんぼーっとしてて…』
「疲れてんだろ。ゆっくり休めよ」
『…あ、りがと…』
(今は…優しい時なんだね…?)