溺れる愛
第13章 疑惑
那津の表情は街灯に照らされていて、どこか柔らかく感じた。
「じゃーな。お疲れさん」
『あ…送ってくれてありがとう!』
踵を返して帰って行く彼の背中に
少し大きな声で呼び掛けると
振り向かずに手をヒラヒラと振って去っていく。
(ぷっ…何気取ってんのよ…)
まるで一昔前のトレンディー俳優の様なその仕草に
心の中で笑いながら、芽依も自宅への扉を開けた。
相変わらず夜は誰も居ない一人では大きすぎる一軒家。
だけど今日はそれが救いのように感じる。
まさか親は、女友達とのこの旅行中に娘が16の若さで男を知ったなんて
夢にも思わないだろう。
少なからず、健全な喪失ではなかった。
だからなのか、色んな人に対しての罪悪感みたいなものが大きかった。
(お風呂入って…寝よう…)
この日はベッドに入った瞬間、引きずり込まれる様にすぐに眠りについたのだった。