溺れる愛
第3章 喪失
「あ、そうだ。お前まだ時間ある?」
『…大丈夫だけど…。』
今日は両親は帰ってこない。
那津は表情を崩すことなく、そのまま背を向けて歩き出した。
「じゃあちょっとつき合え。」
『え…っ』
(何なのこの人。)
『助けてくれた事は感謝するけど私─』
「お前に拒否権は無い。」
また言い終わる前にバッサリと切り捨てられる。
その瞬間、忘れていた不安が一気に押し寄せてきた。
たらりと背筋を嫌な汗が流れる。
バクバクと激しく脈打つ心臓。
思わずその場に立ちすくんでいると、少し前を歩いていた那津が振り返り
「早く来いよ。芽依」
その顔は、逆光でよく見えなかったけれど、
その声は少し優しかったような気がした。