溺れる愛
第3章 喪失
(ていうか、さっき…俺のって言ってたよね…
何気に抱き締められてたし…)
男達を撒くための嘘だけれど、それでもあそこまでする必要はあったのか。
ただの那津の気まぐれなのかもしれないが、自分の気持ちがそれに揺さぶられる。
「おい、早くしろよ。」
『あ…ごめん…っ』
小走りで那津の後を着いていくと、しばらくして
一軒のマンションの前に到着した。
『え…』
(どうしよう…何かされたらどうしよう…)
焦る芽依には目もくれず、那津は慣れた手つきでオートロックを解除してエントランスへと入って行く。
「来ねーなら警察」
ボソッと呟いた那津の言葉に、芽依はビクッと身体を震わせて、渋々後に続いた。
幸いエレベーターでは、他の住人と一緒だったため
それほど緊張せずにやり過ごせた。
7階の角部屋の前で、那津は扉を開けて芽依に手招きした。
「どーぞ」
(先に入れって事…?)
『…お邪魔します…』
那津の支える扉をくぐり抜けて、家に入ると
当然そのまま那津も入ってきて、
後ろ手にカチャ…と鍵を閉める音
もう引き返す事は出来ないと
頭のどこかで警告音が鳴っていた。