
溺れる愛
第14章 錯乱
「芽依…キスしたい…」
しばらく抱き合ってから、不意に頭上からそんな甘い声が降ってきて
『………』
無言で泣きはらした少し紅い顔を上げると、
愛おしそうに見つめられ、頬をそっと撫でられる。
「…好きだよ」
『…私も…です…』
そっと、優しく唇が重なる。
そのキスは芽依の涙のせいでしょっぱかった。
だが、この時の芽依の心中は穏やかなものではなかった。
自分の為を想って本当の事を打ち明けてくれた俊哉。
芽依を本気で好きになって、セフレを全員切った彼。
なのに自分は、セフレと言えばそうなる存在が
現在進行形で存在する。
不本意な始まりではあったものの、拒否しようとすれば出来たはずだ。
こんなにも自分と真剣に向き合ってくれている優しい彼を
自分はとうに裏切ってしまっている。
そして今もそれを切り出せなくて、こうして彼の優しさにどっぷり浸かって酔いしれて…
なんて自分は最低なんだろうと痛感する。
こんなにも好きで居てくれているのに
自分は俊哉の側に居る資格なんて本当はもうない。
渦巻く罪悪感は精神をすり減らして行く。
────俺は身体さえ貰えればそれでいい。
心は彼氏に置いとけ─────
やはりこんなに都合良く考えられない。
だけど行動はこんな都合良くしてしまっている。
それは俊哉が先程言っていた言葉と同じ。
嫌われたくない。
ただその一心だった。
最初は。
だけど今は?
自分は少なからず毎回那津を求めている。
言わされているのではなく、自分の意志で…。
その矛盾が余計に芽依を追いつめる。
