
溺れる愛
第14章 錯乱
結局何も言い出せないまま、何食わぬ顔で俊哉の横を歩いて家に帰る。
楽しそうに話してくれる彼があまりにも綺麗で
眩しくて直視できない。
自分はこんなにも汚れている。
大好きな彼が居ながら、身体は別の男を欲しがって
満たされて…
(今…私、どんな顔をしているんだろう…)
俊哉の笑顔につられて笑っている気がする。
都合良く考える心は無くても
都合良く振る舞える身体がある。
やはり那津の言ったとおり
自分は悪い女だ。
家まで送って貰い、去っていく彼の背中が余りにも遠くに感じて
自分は今どこに立っているのかさえ解らなくなる程目の前がぐらつく。
(…那津の事は…終わりにしなきゃいけない…)
これ以上、あんなに優しい彼を裏切る事なんてしてはいけない。
次、もし何かを命令されたら
その時は断ろうと強く心に決めた。
