
溺れる愛
第14章 錯乱
そこにいたのは、いつもの無表情からは考えられない程の穏やかな笑みを浮かべた那津と
その隣に寄り添う様に立つ、
長身でフレアスカートからスラッと長くて綺麗な脚を覗かせ
ふんわり巻かれたセミロングの茶色い髪を靡かせた
キリッと猫目の凄く綺麗な女の子。
その目を疑ってしまう余りの光景に、芽依はただ
口を開けて驚いた表情を浮かべるだけだった。
(え…?那津…と、この子は…?)
すると、その女の子が少し高い声で口を開く。
「あら…ごめんなさい。ぶつかってしまいましたか?」
『……えっ!?あ、いえ…!』
突然話しかけられて、しどろもどろに返事をすると
その女の子はくしゃりと表情を崩して笑う。
「良かった。ね、森山くん」
その時、話を振られた那津に目を向けると
やはり彼は今までに見たこともない穏やかな表情で
「えぇ。そうですね」
と答え、芽依とは完全に他人のフリを決め込んでいた。
「お先にどうぞ」
那津に、にっこりと微笑まれながらそう促されて
芽依は困惑の表情で那津の顔を見るが、その真意はまるで見えない。
『…どうも…すみません…』
なんとなくただならぬ空気を那津から感じて
芽依も合わせて他人のフリを決め込んだ。
そのまま入れ違いで店を出て、ウインドーから店内を歩く2人を振り返って見ると
那津だけがこちらを向いていてバチっと目が合う。
(───っ)
その表情は、いつもの那津のもので
なんだかモヤモヤしたものが気持ち悪くて
芽依はまた振り返って家路を急いだ。
