溺れる愛
第3章 喪失
『…え?』
(待って…本当に待って…!)
じりじりと距離を詰められ、思わず手を着いて後ろへ後ずさる。
「意味わかってんだろ?」
『や…でも…あの、ほら!ご家族の人は!?
こんな事してたら…!』
「一人暮らしだから」
一瞬間を空けてから
(…え?)
『えぇぇ!?こんな凄いお家に一人で住んでるの!?』
びっくりしすぎて、思わず迫られている事も忘れて
大きな声を出してしまった。
那津は、芽依のその様子に少し呆気にとられたあと
「普通この状況でそんな馬鹿でかい声出すかよ…
耳いてぇ…」
心底うっとうしそうに身体を離した。
『あ…ごめん…?』
(って!なんで謝ってるのよ私…!)
「あー…なんかやる気なくした…」
那津はそのまま珈琲を一口啜って、少し離れた距離に座り直した。
芽依はそれにほっと胸をなで下ろし、体勢を整えた。
(なんか…助かった…?)
それにしても、こんな広い家に豪華な家具に囲まれての一人暮らし。
並外れたお金持ちなのかもしれない。
先ほどまでとは少し違った緊張感が余計に芽依を焦らせた。