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溺れる愛

第16章 冷雨





恐る恐る顔を上げると、やはりそこにはあの冷徹な表情を浮かべた那津が
冷たい視線をこちらへ送っていた。



「そのまんまの意味だよ」


『……わかんない。ハッキリ言って』


「はぁ…俺、最初に言ったよな?
お前の利用価値は身体だけだって」



(それは何度も口酸っぱく言われた…)



「俺のこと好きになるなって言ったよな?
尻尾振って着いてくる様な女はいらねぇって」



『私は別に…!好きだなんて言ってないし
尻尾も振ってない!』



「……でも、もうお前は用済みだ」


『…用済みって……何それ…』


「もう何も話すことはねぇよ。
ほら、帰れよ」



そう言って、乱暴に芽依のスクールバッグを玄関の方へと放り投げる。

そんな那津を見て、芽依の心はみるみるうちに沈んでいき
悲しさや悔しさの混じった涙がどんどん溢れてきた。



(…こんな奴の事…私……)



血が出る程、唇を噛み締めて
相変わらず表情を崩さない那津を正面から睨む。


そして、今まで出したどんな声よりも大きな声で


『最低!!大っきらい!!!』


こう叫んでからは、もう無我夢中にバッグを拾って
靴を履くのもそこそこに走って那津の家を飛び出した。



(やっぱり…あの優しさは全部…全部嘘だったんだ…!最低…!あんな奴……)


エレベーターに乗り込み、そこで我慢していた涙が
堰を切った様にどばっと溢れてこぼれる。



(…わかってた事なのに……バカみたい……)



その時、那津の部屋からガシャーン!と
ガラスが割れる様な音がしたことに
エレベーター内にいる芽依は気付く事は無かった。


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