溺れる愛
第18章 久しぶりのときめき
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『あの、本当に良かったんですか?
ご馳走になってしまって…』
「いいんですよ。僕からお誘いしたのに。」
さっきからまた普段の田所さんに戻ってて、少し安心する。
食事は、結構なお値段だっただろうにも関わらず、いつの間にか会計を済ましてしまっていたのだ。
やっぱりする事全てが余裕のある大人な男性って感じで…
とても同い年とは思えない。
冷たい風がビルの隙間を通り抜ける。
田所さんは近くに、これまたいつの間にかタクシーを呼んでいて
そこへ私を乗せてくれた。
「運転手さん。これで彼女をお願いします。
お釣りはとっておいて下さい」
そう言って、福沢諭吉が2枚……って!
ここから家まで2万円もしないし!
ていうかそれくらい自分で…!!
『あの、そこまでして頂くわけには…!
それに私の自宅はそれほど遠くはないので…!』
焦ってまくし立てる私をよそに、田所さんはタクシーのドアを閉めてしまった。
開いた窓からにっこりと微笑む田所さんが。
「本当にいいんですよ。」
『でも…!』
「いいから。俺の好意を無駄にする気?
酷いなぁ芽依ちゃんは。
少しくらい格好つけたっていいだろ?」
『あ……』
うっ…また変な田所さんだ…。
私はその田所さんの有無を言わさぬ態度に根負けし、
渋々それに従った。
『じゃあ…お言葉に甘えて…。
本当に今日はありがとうございました』
「こちらこそ。とても有意義な時間を過ごせました。それでは、また打ち合わせで。
お休みなさい」
『はい。私もです。
お休みなさい…』
その言葉を合図に窓が静かに閉められ、
田所さんがそっと片手をあげると、運転手はアクセルを緩く踏んだ。
過ぎ去る直前にもう一度だけ頭を下げると
田所さんもヒラヒラと手を振ってくれる。
段々小さくなっていく田所さんをバックミラー越しに見つめながら
先程の田所さんの言葉を思い出してまた不安になった。
面白い事って…本当に何なんだろう…。
まるでこの先何が起こるか全て知っているかの様な
口振りだった。
それにあの探るような目に含み笑い…
田所さんは一体何を考えているの?
得体の知れない彼に翻弄された一日だった。