
溺れる愛
第19章 思っていた以上に
これ以上何を話していいかわからなくて
また口を閉ざした私に明るく可愛い声が飛んできた。
「あ、先輩!やっと見つけましたよー!
どこ行ったかと…って、あれ?」
『あ…菜々子ちゃん。こちら、wonder landの社長の森山さん。きちんとご挨拶して』
私の言葉に少し焦った菜々子ちゃんは
素早く身嗜みを整えてぺこりと一礼した。
「初めまして!あの、私
ふたばデザイン事務所の───」
菜々子ちゃんと那津が挨拶を交わしているのを見て
私はすかさず田所さんに声をかけた。
『あの、田所さん。すみません、私
ちょっと外します…』
逃げるようにその場を去ろうとすると、
田所さんがクスッと笑って私の腕を掴み
耳元でそっと囁いた。
「ね?面白い事が起きたでしょう?」
『…あなたは………いえ、失礼します…』
この人は一体何者なんだろう。
どうしてあんな事を言うんだろう。
まさか…私と那津の関係を知っている…?
だとしたら全て辻褄が合う。
だけど今はそれより、早くここを出たい…!
段々と目には涙が浮かんできて、
滲む視界の中でやっと会場を出て
人のいない静かなロビーのソファに腰掛けて
はぁぁ…と大きな溜め息をついた。
咄嗟に覚えていないフリをしてしまった。
でも、那津もそんな雰囲気だった。
もう忘れられていてもおかしくないと
頭ではわかっていたけれど…
面と向かって実感してしまうと
こんなにもつらい…。
さっきから手の震えが止まらなくて、ストールを握る手にギュッと力を込めた。
