
溺れる愛
第19章 思っていた以上に
その時、後ろから誰かが近づいてくる気配がして
零れかけた涙を堪えてやり過ごそうとした。
人前でなんて、泣けない。
早く通り過ぎてくれないかな…。
下を向いて、足音が過ぎるのを待っていると
その音は私のすぐ横で止まった。
「……芽依」
もう…ダメだ…。
心臓を鷲掴みにされた様な感覚。
小さな声だけど、脳に訴えかけてくるように
一言も逃さずに耳に届くその声。
名前を呼ばれて……心が震える。
涙が止まらなくて。
下を向いたまま私が言ったのは
『…元気に…してたんだね…』
心から思った言葉で。
文句なんて、一つも出て来なかった。
