
溺れる愛
第19章 思っていた以上に
那津はゆっくりと私の前にしゃがんで
そのまま私の頬を両手で挟んで前を向かせた。
今…見られたくないな…
ぐしゃぐしゃだろうし…。
「…お前も…元気だったか?」
『……うん、元気だったよ』
本当はそんなに元気じゃなかった。
どこか一つ抜け落ちた様な気分だった。
だけど、今日こうして、たった一目でも
あなたを見ただけで、この八年の空白が埋められた様な気がしたんだ。
「……なんで…泣いてんだよ…」
『…なんでだろうね……ごめん…』
「……俺に…言いたいこと
いっぱいあんだろ…」
目の前で、那津が苦しそうに表情を歪める。
『うん…あったはずなんだけど……
もうどうでも良くなった…』
頬に添えられた那津の手に、そっと自分の手を重ねる。
『……会いたかった…』
絞り出すように、小さな声で呟くと
その瞬間、那津の大きな胸に顔を埋めて、その腕の中に閉じこめられた。
「………大嫌いな奴にか…?」
『…そんな事……言ったね…』
しばらくそうしていたけれど、すぐ近くには仕事関係の人達が大勢いるので
名残惜しい気持ちで腕を離した。
