
溺れる愛
第20章 近付けた喜びと陰
『じゃあ…どうして…』
「…事情があった…。
だからワザと芽依に近づいた」
事情って…一体何?
「けど…段々、俺自身がマジになってて…
でも、俺はあの時、芽依とは一緒になれなかった」
『…どういう事…?』
「……勇気が無かったんだ…。」
どうして勇気が必要なの?
そう思うけれど、今の那津にはそんな野暮な事
聞けそうにない。
「芽依が男と別れたって聞いて…嬉しい反面
向き合うのが怖くなって…俺は結局逃げたんだよ」
『…それで、東京に?』
「まぁ…そういう事だな…」
何だかまだ話せない事があるみたい。
那津は一言一言を選んで話している。
それがよくわかるから…
『いつか…話せるときがきたら…
話してね…』
私の言葉に、驚いた顔をした那津は
突然腕を伸ばして、その中に私を閉じ込めた。
「芽依……ごめんな…」
耳元で、那津の切ない声が聞こえる。
それがとても悲しくて
なんだか泣きそうになってしまった。
