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溺れる愛

第20章 近付けた喜びと陰




この八年間、ずっと探し続けてきた温もりが
すぐ近くに感じられて

胸がいっぱいで涙が出そう。



『あのね…小説、読んだよ』


抱き締められたまま、那津の腕の中から見上げると
そのまま目があった。



「そっか…」


『ねぇ…いつ書いたの?』


「…芽依と離れてから…今までずっと。」


『え…そんなに長く…?』


「ああ…何度も思い返して書き直して…
俺の大事な物だから…最高の出来にしたくて。」


『…それって…』


「そ、芽依との思い出。
俺にとって、この八年間それだけが支えだったから」


那津はまた、何かを思い出して苦しそうな顔をした。


『…色々あったんだね…』


「まぁな…。でも、芽依に会えたし…
全部吹っ飛んだわ…」


それは…私も同じだよ。


那津とまた、こうして居られるなんて…

それだけでもう充分だよ…。



『私も…会えて良かった…』


「……」



それからはもう、言葉を交わすことはなく
ただひたすら抱き締めあっていた。


あんなにもうるさかった心臓も
いつしか那津の温もりに安心したように静かになって

言葉なんてなくても、抱き締められたこの温もりが全てを伝えてくれる。


愛してる…。


ねぇ、この気持ち、ちゃんと伝わってる?



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