溺れる愛
第22章 あの頃の君は
それから俺は家にも入れてもらえなくなって
姉ちゃんが閉じ込められた蔵で生活させられた。
もちろん冬は寒さで凍え死んでしまいそうだったし
夏はうだるような熱さで熱中症にも何度もなった。
そんなとき、学校帰りに
1人のおっさんと出会ったんだ。
真っ直ぐ家に帰るのが嫌で、毎日公園で暗くなるまでボーッとしてたんだけど
それをよく見かけていたからって声をかけられた。
最初は何だこの汚ねぇおっさんって思った。
だけど、そいつは来る日も来る日も俺に声をかけてくれて
次第に俺もそのおっさんに懐いた。
俺が小説を書くようになったのは
このおっさんがキッカケだったんだ。
おっさんは、名前すら教えてくれなくて
“おっさんでいい”って言うから
俺は今でもおっさんって呼んでる。
そいつさ、官能小説家だったんだ。
本の中は自由だ。
何でも好きなことをしたらいい。
誰も咎める者はいない。
そう言われて、俺はそのおっさんがすげぇ格好よく
見えたんだ。
それから毎日毎日おっさんのボロアパートに入り浸って
子供じゃ理解出来ない様な内容だけど
俺はそれでもおっさんの書く話が好きだった。
そこには、おっさんの世界が活き活きと広がっていたから。