
溺れる愛
第24章 少しずつズレる歯車
甲高い女の声。
ビクッと私に触れようとしていた那津の手が止まった。
「どうして連絡して下さらないんですか?」
近づいてくる。
ゆっくり、恐る恐るその方向を見ると
長身のスラッと長い脚。
茶色いゆる巻きの髪に
キリッと猫目の綺麗な女性──。
そこにいたのは、
かつての那津の婚約者だった。
どうして…彼女がここに…。
「あら…?そちらの方は…」
「彼女は今お世話になっている業者の方です。」
婚約者の目が私に向きそうになったところを
那津が後ろ手に庇ってくれたのが解る。
だけど、婚約者はそれでもグイグイ私の方に近寄ってきた。
「ねぇ…あなた、どこかで会ったことはないかしら…」
『……っ』
ギクリとして、思わず息を呑んだ。
バレてはいけない。
絶対に。
直感的に、そう思った。
