
溺れる愛
第24章 少しずつズレる歯車
困惑する私に、更に田所さんは続ける。
「那津は…芽依を側に置きたいけど
彼女の後ろにある権力をも欲してる。
芽依は、都合良く振り回されるだけかもしれないよ」
その言葉に、私は反射的に叫んでいた。
『違う!那津はそんな人じゃない!』
「どうしてそう言い切れるの?」
田所さんは、取り乱す私とは対照的に落ち着いた様子だった。
『那津は…私の事や、私の家族を守ってくれた。
自分が辛くなるのを承知の上でそうしてくれた。
だから…そんな酷いこと、するような人じゃない』
「ふーん…でも、じゃあ訊くけど
芽依は那津の何を見てきたわけ?」
『えっ…?』
「俺はガキの頃から…芽依と離れていた八年間もずっと隣で那津を見てきた。
だけど芽依はたった少しの間のあいつしか知らない。
それなのに、那津の人間性を全て理解出来てるの?」
その言葉に、私は言葉を無くした。
私は…確かに知らない事の方が多いのかもしれない。
だけど、あの日…。
真実を話してくれたあの那津は
嘘を言っている様には見えなかった。
あの日の那津は、本当の那津だった…
そう思うのに…
「今、芽依が感じてる那津の気持ちが
嘘だった場合、それでも信じてあいつを待つの?」
嘘────。
そのたった二文字の言葉に
信じたものがあっけなく崩れていきそうになる。
『…どうしてそんな事を言うの……』
漠然とした不安が、より鮮明に私の心を埋め尽くす。
昼間のあの二人の様子を思い出してしまって、
心が引き裂かれてしまいそうに痛い。
「ごめん…意地悪だよな…。
でも俺は、芽依を助けたい。だから今日誘ったんだ」
『……助ける…って…』
「…もう…辛い思い…したくないだろ…」
