
溺れる愛
第26章 選択肢は一つ
輝之は、少しだけ苦しそうに
目を伏せて話し出す。
「確かに僕は、全てにおいて完璧だった義兄さんが羨ましかった。
妬んでいた。
だけど、それは義兄さんが人より何倍も努力をしていた事を知っている。
母や父は、僕をなかなか認めてくれない。
だけど義兄さんだけは
お前なら社長の座を継いでもやっていける
と言ってくれたんだ。
その時、僕は間違っていたと気付いた」
『那津が……』
「今まで義兄さんにしてきたことは
決して許される事じゃないと思ってる。
だけど、もうこれ以上義兄さんを苦しめてはいけない。
母に目を覚まさせられるのは僕しか居ない。
それに、無関係のあなたにまでこんな……
本当に申し訳ありません…
どうか…母を許してくれませんか…。
母は、凄く不器用で臆病な人なんです。
だからすぐ他人を傷つけてしまう…
それでも僕にとっては大事な母なんです。
どうか…お願いします…。」
輝之は、深々と私に土下座をした。
『ま、待って下さい…!
顔を上げて…私は大丈夫ですから…!』
焦って顔を上げさせると
輝之の目には少しだけ涙が滲んでいた。
