溺れる愛
第4章 混沌
カッとなって無意識のうちに振り上げていた手を
簡単にパシッと捕まえられて
那津はグッと顔を近づけて
「主人を殴ろうとするとはねぇ…まだまだ調教が必要だな?」
(…最低…!)
『離して!!』
パッと腕を振りほどいて、もう振り返らずに重いドアを開けて外へ飛び出した。
(最低!最低!あんな奴…少しでも優しいなんて思った自分がバカだった…!!)
涙ぐみながら、口元を押さえて走って体育館の出口を目指す。
(大っきらい!あんな鬼畜悪魔…!)
『きゃっ!』
「おわっ!」
ドンっ!!と正面から勢い良く誰かとぶつかって
ガシッと身体を抱き留められる。
(今日はぶつかってばっかりだ…)
前を見ていなかった自分が悪い。
零れそうになる涙を我慢しながらすぐ体勢を整えて
『ごめんなさいっ!』
と深く頭を下げると、頭上からくすりと笑い声が降りてくる。
「またぶつかったね」
(え…またって…?)
ゆっくりと顔を上げると、そこにはあの爽やかで優しい笑顔の先輩が立っていた。
「芽依ちゃんだよね?良かった。今度もしっかり支えられて。」
(先輩…!?)