溺れる愛
第4章 混沌
(嘘…また先輩……)
驚きのあまり、先輩の腕の中で固まってしまった芽依の頬を溢れた涙が伝う。
「え!?どうした?泣くほど痛かった?」
ぎょっとした顔をしながらオロオロと芽依の顔を覗き込む先輩にハッとして
自分の今の状況をようやく理解した。
『違…、ごめんなさいっ』
やんわりと先輩の腕を振り払って一目散に駆け出す。
背中に先輩と、那津の視線を感じながら。
(やだ…こんな、泣いてる所見られるなんて…!)
先輩に抱き留められた嬉しさも、今は素直に受け止められない。
────案外簡単だな────
那津の冷たい一言が頭の中をぐるぐると埋め尽くす。
(うるさい…っ!)
今はただ、早くこの涙を止めたくて
無我夢中に走り続けた。
(泣きたくないのに…悔しい…っ)
体育館へ向かってくるクラスメイトとは逆方向に走り去る芽依を
皆が訝しげに見送る中、そんな視線を痛いほど感じながらも走る。
「あれ!?芽依!?」
途中桃花とすれ違って声を掛けられたけど
『ごめん、ちょっとトイレ!』
走りながら返事をして、目を合わせることも出来なかった。