溺れる愛
第4章 混沌
太陽が真上より少しズレた位置に居て、
ジリジリと容赦なく夏の日差しを照りつけてくる。
見下ろす校庭は体育の授業の真っ最中。
体育館からも、クラスメイトの声がうっすらと聞こえる。
(暑い……。)
あれから結局、走るだけ走って屋上まで来てしまっていた。
那津と顔を合わせることが嫌で、
泣きはらした顔を皆に見られることも嫌で
(初めて授業、サボっちゃった…)
屋上の手すりにもたれかかりながら
はぁぁーと盛大に溜め息を洩らした。
(何が悲しくて…あんなに泣いたのかわかんない。)
悔しさや羞恥が入り混じった様な
なんとも言えない気持ちの悪さだけが残る。
(昨日は確かに怖くて泣いたけど…さっきは…
怖くはなかった…)
その事実を認めることが嫌で。
────案外簡単だな────
図星だった。
那津の少しだけ垣間見えた優しさに
簡単に心を動かされた。
キスも、耳や首への愛撫も
何の抵抗も無しに受け入れてしまった。
(……最低…。)
そんな自分が悔しくて、恥ずかしくて
だから泣くことでしか発散出来なかった。
『はぁぁ…先輩にも泣いてるところ見られちゃうなんて…』
さっきの驚いた顔の先輩が頭に浮かぶ。
『ちゃんとお礼も言えなかったな…。』
変な女だと思われたかもしれない。
しっかりお礼も言えない奴だって幻滅されたかもしれない。
手すりにもたれてうなだれながら
『全部あいつのせいよ……』
ボソッと悪態をついて、また大きな溜め息を洩らした。