溺れる愛
第4章 混沌
─────……
「新井ー。どうしたー?珍しいなー」
芽依は今、職員室に呼び出されて担任と向かい合う形で立っていた。
『…すみません』
早速授業をサボった事がバレて、放課後の呼び出しを食らっていた所だ。
「何かあったのかー?」
『いえ…本当にすみません』
沈んだ表情でただひたすら謝る芽依に、担任は困ったように頭を掻きながら
「まー、今日は多めに見てやるけど、もうすんなよー?」
『はい。すみませんでした…』
ぺこりと一礼してから職員室を出て、荷物を取りに教室へと向かった。
ガラッとドアを開けると、もうそこには誰もおらず
少しオレンジがかった広い教室には
皆の机や椅子に、芽依の鞄がぽつんとあるだけ。
静かに荷物を手にとって
力が抜けたようにストンと椅子に腰を下ろした。
(桃花ちゃんたちも心配してくれてたな…)
トイレとだけ伝えて走り去ったので、体調が悪かったんだと皆誤解していたが
それが逆に芽依にとっては有り難かった。
(本当の事なんて…誰にも言えないよ…)
鞄を枕に、机に突っ伏して窓の外を眺める。
遠くから聞こえるクラブ活動の声や帰宅する生徒の声が
なんとなく心地よくて、そっと目を閉じた。
その時、真っ先に浮かんだのは
先輩のあの優しい笑顔。
(好き…先輩が好き…)
スカートのポケットからスマホを取り出して
先輩のシュート練習中の画像を開く。
(こんな写メ撮ってたから…だからあいつに良いようにされてるんだよね…)
そう思うが、画面の中の先輩はやはり格好良くて
胸がきゅぅっと締め付けられる。
(見ているだけって思ってたのに…。思わぬハプニングで、抱き留められて、名前まで呼んで貰えて…)
もしかしたら夢かもしれない。