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溺れる愛

第5章 階段





(家来るの二回目だけど…相変わらず色んな意味で緊張する…。)


通されたリビングで、上質なソファに腰掛けながら
家を埋め尽くす高級品にうっとりと溜め息が洩れる。


「やっぱり簡単だな」


ノートパソコンを片手に、那津は冷たく言い放って隣に腰掛けた。



『…。』



(わかってた。全部私を服従させるための気まぐれで…)


那津はパソコンを起動しながら、ボソボソと言葉を紡ぐ。


「どう?俺の迫真の演技力。
さっきのあれ、今度の連載のシチュエーションをイメージしたやつ」


わかってはいても、無性に腹が立つし悔しいし、
それに振り回される心が痛い。


『…あっそ。』


「すげぇいい男っぽかったろ?
女の涙が自分だけのものだーみたいな。
そんなのありえねーよな普通。
そんな事考えてる男いねぇっつの」


那津は優雅な手つきで珈琲を啜りながら
あの冷たい悪魔の顔つきで話を進める。


(先輩は…きっとあぁやって、優しく包んでくれる人だと思う)


『そう思うのは、あんたが本気で人を好きになった事が無いからじゃない?』



考えるより先に、口から言葉が漏れていた。


その言葉に、那津は視線をこちらへ向けて
芽依が思わず竦んでしまう程の冷徹な顔つきで


「興味ねぇな」


『…かわいそうな人』



芽依も少し意地になっていたかもしれない。



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