
溺れる愛
第5章 階段
「てめぇ、自分の立場わかってんのか」
那津は少し怒った様子で、グッとソファに手を着いて芽依との距離を縮めた。
『こっ、来ないで…!』
(怖い…やっぱり来るんじゃ無かった…!)
那津は有無を言わさずに芽依の両手首を軽々と捕まえて縛り上げる。
ぎりっと那津の親指の爪が手首に食い込んで
苦痛に芽依の顔が歪んだ。
『…ったい…っ!』
「いいか。お前は俺に人生握られてんだよ。
このまま円満に過ごしたかったら口答えせずに
俺に従ってればいい。
俺に口出しもするな。目障り」
(目障りって…!)
反論したいけれど、人生を握られているのは確かで
それ以上強く出られない。
『…私もあんたなんて大嫌い』
震える声で精一杯、那津の冷たい仕打ちに反撃する。
那津は冷徹な笑みを浮かべながら
「当たり前。じゃないと楽しくねぇだろ?」
怯える芽依の制服のリボンにくっと人差し指を引っ掛けて引き寄せると
「好きになんかなられたら、お前を痛めつける俺の楽しみが無くなるだろ」
(…本当にこの人は悪魔だ…)
どこか状況とは反対に、冷静にそう思った。
何一つ、淀みなく言い放った那津は
本当に芽依が苦痛に耐える姿を楽しんでいる。
直感的にそう確信した。
