
溺れる愛
第5章 階段
那津は芽依の片方の手首を捕まえたまま
「来い」
と短く言い放って、嫌がる芽依を無理矢理引きずって自分の部屋へと連れて行った。
『いや!離して!』
強い力で引っ張られて、いくら振り解こうとしても
那津の手はびくともしない。
(どうしよう…どうしよう…!)
焦りから全身に嫌な汗が吹き出す。
電気をつけていないカーテンを閉め切った薄暗い部屋に
机とベッドだけが置かれていて
その窓際に置かれたベッドの上にドサッと勢いよく投げ落とされる。
『…ゃ…来ないで…!』
芽依を見下ろす那津の顔は暗くてよく見えない。
だけどどんな表情をしているかは容易に想像がついた。
『やだ…お願い…乱暴しないで…』
恐怖からガクガクと震える脚をなんとか動かして後ずさるも
那津はお構いなしに無言で芽依との距離を詰めてくる。
ギシッ…とベッドが軋む音がして
あっという間に馬乗りになられた。
『…やめ…て、お願い…』
もはや無駄かもしれない抵抗を、泣くことも忘れて必死に試みるも
那津はそれを嘲笑う様に一蹴した。
「はっ。いいねー。もっと嫌がって。
今俺が書いてる奴ってさ、嫌がる女を無理矢理犯して、でも最終的には女が男に溺れるって話」
(何言ってるかわかんない…!やだ…やだ…!)
「お前もそうなるんじゃねぇの?ま、なった時点でお前は用済みだけどな」
『せ…んぱ…い…』
窮地の状況で、ふいに頭に浮かんだ先輩のあの優しい笑顔に
無意識にすがりつくような声を出してしまう。
那津はそれすらも楽しいのか
「そーそー。好きな男思い浮かべながら
俺に好き勝手されてボロボロになればいいよ」
(…狂ってる…おかしいよこの人…)
そして、震える唇を強引に塞がれた。
