
溺れる愛
第6章 変化
その日の夜、食事と入浴を済ませて部屋で寝る支度をしていた時
ベッドの上に充電器を繋いだまま放り投げていた携帯が震えた。
(…?桃花ちゃんかな?)
何気なくとって、画面を開いた芽依は
飛び上がりそうな程に動揺してしまう。
そこには
“川上俊哉”の文字。
(で、ででで電話っっ!?)
バクバクと脈打つ心臓を片手でギュッと押さえて
震える指先でそっと通話ボタンをタップした。
『はい…もしもし…』
(大丈夫だよね?ちゃんと言えたよね?噛んでないよね!?)
すると受話器からは、先輩のあの優しい声が聞こえてくる。
「あ、芽依ちゃん?ごめんね、こんな時間に。
今日番号聞いた川上だけど、わかる?」
『あっはいっ!もちろんですっ!!』
(わからない訳ないよ!!)
先輩の美声にうっとりとしながらも
なんとか意識を奮い立たせて会話に集中する。
「あのさ、良かったら明日バスケ部の練習見に来ない?土曜日だし…予定が空いてればなんだけど…」
(うそ!!信じられない!!私、誘われてる!?先輩から!?)
上がりきったテンションが邪魔をして思わず黙りこくっていると
「ごめん、やっぱり急に迷惑だったかな…」
(い、いけない!)
『あのっ!全然!すっごく嬉しいです!!』
芽依のあまりの意気込みに、先輩は優しくふふっと笑ってから
「良かった。じゃあ明日一時に体育館に来てくれる?」
『はい!行きます!必ず行きます!』
「ははっ。楽しみにしてる。じゃあ、おやすみ」
『は、はい!おやすみなさい…!』
(うっそ…信じられない…)
放心状態で今さっきまで先輩の声が聞こえていた携帯を凝視する。
(おやすみ…だって。おやすみって!!)
先輩の声を最後に眠りにつける喜びを噛み締めながら
その日の晩はなかなか寝付けない芽依だった。
