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夏のシュークリーム

第3章 賭けには勝てたから

「…心苦しいけど、感謝してるよ。ちゃんと挨拶しなきゃね、今日は?」
「今日は父もいて、見つかると厄介なので、別の日に。」
「分かった、けどお父さんにもいつか会わないと。仲良くなれるといいな…」

松井のその言葉が自分への真剣な思いを意味している。

そう感じとると、咲は幸せな気持ちになった。

「あ!そう言えば、次郎君からの伝言で残りのシュークリームは安心して食べて、との事でした。」

「あ…うん」
感謝…すべきなんだろうな。
次に会ったらお礼言おう。

「あの二人、本当に仲良しですよね」
「俺らもそうだよ」
「そ…そうですね」
咲は真っ赤になりながら、温めた夕食を次々にテーブルに運んだ。

「あれ」

薄暗くなってきたので明かりをつけると、松井は自分が座っていたソファに疑問が湧いてきた。

「このソファ、こんな色だったっけ?」

姉が付けたスナック菓子の油汚れや、コーヒーのシミがいくら拭いても取れず、日焼けもして黄ばんでいたはずだが、随分白い。

まるで新品のように…。

「園田さん、このソファ…」
「私とミカ先輩がご飯を作っている時、次郎君が一生懸命に掃除していましたよ」
「そっか…」

やはり、やりやがったな。

「流石、次郎さん」
松井は表情筋をひきつらせながら呟いた。

…けど

「ご飯の支度、出来ましたよ」
「ありがとう」

マグロとイワシも、お土産で貰った缶詰めの餌を美味しそうに食べている。

確かに、腹が立つことは多々あるが、今この時があるのは彼のおかげだ。


食後に二人で頂いたシュークリームは、意識を失う事なく、最後まで美味しく食べることができた。

「抹茶クリームも美味しいですよ」

松井は咲に勧められるまま初めてその味を口にしてみると、あれ程敵視していた抹茶の味も、そう悪くないように思えた。


◆◇◆ おしまい ◆◇◆
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