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「再会」と呼べる「出会い」

第8章 その周りの人々

「そうです。あの、神鳥さんです。」

マスターが紹介してくれた。

「ほぅ…」

振りかえるか、と思ったが
残念ながら少し顔を傾けただけだった。
相変わらず、髪の毛に隠れて
顔はよく見えない。

「神鳥さんは作家さんなんですよ
 ほら、これ」

「お そうじゃったのか」

マスターが出した私の本に
男性が手を伸ばす。

「『冷めた鉄鍋』も良い話じゃったが
 儂は『蜃気楼』が好きでのぅ。
 何度も読ませて貰っとる。」

低く響く、落ち着いたイイ声だ。

「ありがとうございます」

『蜃気楼』か。
若い頃に書いた話だ。
二人の仲の良い男が
一人の女性に恋をする。
片方の男と結ばれるが、
病気がちだった彼女はすぐに
死んでしまう。

確かそんな話。

私にしては珍しく悲哀物で
評価は高くなかった。
あの話を好きだと言って貰えるのは
すごく珍しい。


「ところでおんし、
 家族は皆、息災か?」

「えっ?!
 はい みんな、元気ですけど…」

突然、家族の事を聞かれて驚いた。
年配の方の中には
こういう質問をしてくる人が
たまにいるから
別に気にするような事でもないけど。

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