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「再会」と呼べる「出会い」

第10章 文明の利器

「何言ってるの?私には
 絶対見せてもらえない表情、
 それをさせられるのは
 次朗さんだけでしょ?」

「無理無理」

マスターの言葉を振り払うかのように
次朗くんが手を振った。

「月子のことはわしに任せて
 おんしは少し、自分の事にも
 手をやくがよい。」

「そんな暇、ないから」

次朗くんはそう言って
くるりとカウンターの方に向き直った。


「まぁ、そう言わず」

「…」





「次朗くん、月子って誰?」

少し重くなった空気に穴を空けるように、
ヤマちゃんが聞いた。

…聞いてくれたって方が正しいかも。
正直私自身も、
実は凄く気になってた。

「もしかして
 妹さんとか?」

「月ちゃんは… 古い友達なんだ。」

「へぇ
 まさか“彼女”とかじゃないよね?
 で、オジサンは
 月子さんのお父さんとか」


…ドキドキ


そ そうなのかな…



「違うよ。
 月ちゃんは俺じゃなくて
 兄さんの…

 …って あ!
 これ、みんなには秘密ね!」

次朗くんは慌てて訂正したけど
そっか…そうなんだ。
月子さんは隠土先生の
大切な人だったんだ。

隠土先生の…  あれ?





「ミカ先輩、バス時間いいの?」

「え」

次朗くんがその手に小さな時計を持って
聞いてきた。

時計、あったんだ。
昨日は小さくて気付けなかったのね



…じゃないっ!!



うそっ?!! あと三分っ?!

これに乗り遅れたら
家に帰るのが遅くなってしまう。
今日はお母さんがパートで、
おばあちゃんも
町内会の旅行に行ってていないから
私が夕飯の支度をしなきゃいけないのだ。


昨日は時間が長く感じて
けど実際には
ほんの少ししか経ってなかったのに
今日はむしろ逆。


まるで
昨日このお店で過ごした時間には
魔法がかかっていたかのような…

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