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「再会」と呼べる「出会い」

第20章 見送る人

「ごちそうさまでした
初めてです
コーヒーがこんなに
美味しいと感じたのは」

「君みたいな子に
そう言って貰えると
余計に嬉しいな
お代はいらないよ」

マスターが百瀬に微笑みかける。

「出国って言ってたけど
どこの国へ?」

「イギリスです
父方の叔父がいて
留学することに…」

「そうなんだ
 あそこには一時期
 住んでいた事もあるけど
良いところだよ
生活にもすぐなれるだろう
…ちょっと待ってね」

マスターが
奥の棚の引き出しを開け、
何か取り出した。

「僕の知り合いがやっている店
オーナーは世話好きだから
何か困った事があれば
頼るといいよ
これを見せれば私から紹介されたって
分かるから」

「… ぁ」

ハガキと、名刺だった。
受け取り、内容を見た百瀬が
小さく声をあげる。


え マスター、名刺があったのか。

覗きこむと
全て英語表記。
そして右上に

「イギリス王室御用達の
エンブレム…!!」

「え 」

「マスターは一体…」

「一時期イギリスで店を
任されていた時があって
その時のね」


歓迎会で頂いた、
バースデーケーキを思い出す。
納得だ。


「へぇ スゲェ
けど勿体無いんじゃ
パティシエやめたんですか?」

井崎まで息をのんで
その名刺を見つめる。

「そっちは趣味でやってるよ
はい お土産」

そう言って
マスターは袋に入ったクッキーを
二人に渡した。

「ありがとうございます…」

「俺まで …
ありがとうございます」

井崎が素直に礼を言う。

そう言えば
なんとなく気になっていた。

井崎建設の御曹司、
の割にはどこか庶民的に感じる。
着ている物も、
街に出れば見かける若者と変わりはない。
特別どこの高級なブランドだとか、
そういう様子にも見えない。
ま、素人が見ただけでは
わからない部分もあるかもしれないが。

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