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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 大坂の打出(うちで)屋は京屋ほどではないが、それなりの格式を持つ呉服太物問屋である。市兵衛は徳太郎と名乗っていた少年期をそこで過ごした。父である先代が息子を他の店で丁稚として奉公させることにより、商人として鍛えるために取った措置であった。
 打出屋で数年過ごし、商人としての知識を身につけた徳太郎が江戸に帰ってきてほどなく、先代は身代を息子に譲った。小紅と市兵衛が知り合ったのは丁度その頃だった。

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