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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 今は隠居して陽斎と号している先代は、いつまでも次男を身軽な独り身でいさせることに難色を示し、徳太郎と同じことがあってはならないと身代を継いで早々に同業店の娘と婚約させたのだ。
 新しい京屋市兵衛はまだ十六歳、相手の許嫁に至っては十三歳の幼さだという。祝言は今秋と決まっていて、これから小紅が縫い上げるのはその結納の儀のときに新婦が纏う晴れ着であった。

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