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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~

第15章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い

 栄佐は理解できないというように首を振った。しかし、小紅はいかにも男気のある徳太郎らしい生き方だと思わずにはいられない。
 恩のある打出屋の先代の遺志を継いで京屋の身代を棄てて、打出屋に婿として入る―、誰にもなかなかできないことではないか。
「まっ、赤の他人のことなんざ、どうでも良い」
 栄佐は懐から桃色の布に包んだ小さなものを取り出した。無造作に小紅に差し出す。
「これ」
「なあに?」 

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